日曜討論における岩下明裕教授の発言

 昨日(2月23日)にNHK『日曜討論』に出演させていただいた。以前から交流させていただいている岩下明裕(長崎大学グローバルリスク研究センター長/北海道大学スラブ研究センター教授)と同席させていただいたのだが、番組中の岩下教授の発言には驚いた。番組前・後と会話をさせていただいたが、時間がなかったため、いずれ研究会を開催したいお願いをした。
篠田英朗 2025.02.24
読者限定

 岩下教授は、番組出演にあたって前日夜に松里公孝・東京大学教授と電話で会話をして意見交換をした、と番組中に述べた。正直、松里教授の実名を出したところで、隣の隣の席にいた私は驚きを禁じ得なかった。

 松里教授は、東京大学法学部でロシア政治の講座を担当している、この分野での日本の第一人者である。その国際的で重厚な業績は、同業者が深く認めるものである。モスクワ大学での在外研究歴はもちろん、近年のドンバス戦争勃発後の時期に、ウクライナ東部に入ってドネツク/ルハンスク人民共和国当局の要人などに対しても聞き取り調査をしているなど、旧ソ連圏での豊富な人脈にも基づく研究活動も素晴らしい。

 ところがこの濃厚な研究歴のゆえに、ロシアのウクライナ全面侵略後には、「ウクライナは勝たなければならない」主義の方々の不当な「親露派潰し」攻撃の標的になってきた。松里教授は、「親露派」の思想に取りつかれている、という言説が、「ウクライナ応援団」界隈では定説となっており、SNSなどで松里教授の人格攻撃の言葉があふれかえっていた時もあった。その結果、22年の全面侵攻直後の時期には松里教授の見解も聞いたりもしていた日本のメディアは、その後はピタリと松里教授の意見を聞くのをやめてしまった。

 私に言わせれば、日本の言論界の閉塞状況の象徴と言える事態であり、日本の知的財産の損失と言ってもいい事態であった。

 私自身は、自分の属する大学の研究会に松里教授をお招きして議論させていただき、夕食の席も含めて広範なご意見をいただいたこともある。大変に有益であった。ウクライナ人研究者4名とやっている共同研究にも松里教授をお呼びしようかと考えたこともあるが、これはウクライナ研究者側の意見を聞いた際に、「松里教授は有名すぎる、ウクライナの大学ではモスクワ留学歴を持っているだけでもう在籍できないような事態だ、いっしょに研究会をやった記録は作れない」と言われたので、あきらめた。その逸話を松里教授ご本人にも伝えたところ「戦時下の国の学術活動に大きな制約があることは理解する」と寛大なご発言をいただいた。

 その松里教授と会話をして、岩下教授は、起こり得るウクライナの選挙の見込みについて語り始めた。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、935文字あります。

すでに登録された方はこちら

読者限定
「多極化する世界」の中の「G2」:後景に退いた「FOIP」「クアッド」...
読者限定
「多極化する世界」における「勢力圏」の顕在化と「従属国」の概念:アメリ...
読者限定
ガザ20項目計画の読み方:「曖昧さ」と「方向性」の間の微妙な均衡
サポートメンバー限定
スーダンの危機的情勢と複雑さ、そして日本の立ち位置
読者限定
ガザ危機勃発から2年~西洋の失墜を直視する~
読者限定
ガザ和平案20項目について
サポートメンバー限定
JICAホームタウン構想撤回と噴出した「ステルス移民政策」抗議運動の行...
読者限定
パレスチナ国家承認をめぐる国際法と国際政治のダイナミズム