ロシア・ウクライナ戦争停戦交渉における連立方程式
トランプ・プーチン会談は「成果なし」と評されたが、実際には停戦に向けた現実的進展であった。8月18日にはゼレンスキーや欧州指導者とも会談し、停戦交渉の具体案が提示された。ロシア優位の戦況下で、領土凍結、NATO非加盟、制裁緩和、ロシア語や正教会の扱いなど複雑な「連立方程式」の調整が焦点である。欧州やウクライナ世論も停戦を志向しており、完全な和平は困難でも停戦実現の可能性が模索されている。
篠田英朗
2025.08.19
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感情論が先行している異様な言論風景
8月15日に行われたトランプ大統領とプーチン大統領の会談は、当事者の期待に沿った形で、穏便に進んだようである。記者会見で戦争の終結を宣言しなかった、といった理由で、「成果がなかった」と描写する論評が多かったようだが、非現実的である。調停者が紛争当事者の一方と話をして、それで一瞬で戦争の終結を宣言する、といったことが起こるほうが異常である。会議前には、ウクライナを交えた三者協議ではないのでダメだ、という声も多かったが、8月18日にトランプ大統領はゼレンスキー大統領とも面談し、あわせて欧州の有力な支援諸国の指導者とも会談した。普通の進展である。メディア層の論評が非現実である。
トランプ大統領と欧州指導者層の間の対立を強調する評論も多いが、実際には、明白に欧州指導者も停戦に向けて進んできている。すでにウクライナ国民の約7割が即時停戦を望んでいるという国内世論動向もあり、ゼレンスキー大統領も、停戦そのものへの反対ではなく、最大限に有利な形での停戦の実現へと、明らかに目標を修正してきている。