台湾防衛と日本の国益の計算

 米中の軍事バランスが崩れる中、アメリカは中国本土への攻撃能力を通じて抑止力を維持しようとしているが、その結果、日本も戦争の被害に巻き込まれるリスクが高まる。日本では中国に強硬姿勢を取るべきとの主張が強まっているが、軍拡競争は日本にとって破綻が見えている選択肢である。台湾の平和と安定、台湾との友好関係の維持は日本の国益にかなうが、中国を駆逐するような非現実的な発想は国益とは一致しない。
篠田英朗 2025.07.13
読者限定

台湾有事における日本の役割という議題

 イギリスの『フィナンシャル・タイムズ』が、アメリカ政府の高官が、日本とオーストラリアに対し、台湾有事の際の役割を明確化するよう求めたと報じた。アメリカ国防総省のコルビー次官が、過去数か月にわたって、日本やオーストラリアとの協議の中で、台湾有事が起きた際の関与を求めた上で、それぞれがどのような役割を担うのか、明確にするよう要請していた、という内容である。両国に対するさらなる防衛費の増強も要請されたという。

 中国の軍備増強に直面し、西太平洋地域では、伝統的な米軍優位の構図が崩れてきている。日本の防衛費倍増や、バイデン前米国大統領の「戦略的曖昧さ」から脱却するような台湾防衛の事実上の意思表明は、その現実をふまえた危機意識の反映であったと言える。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、2322文字あります。
  • 主戦論の限界
  • 欧州の教訓
  • 台湾の重要性

すでに登録された方はこちら

読者限定
トランプ政権「国家安全保障戦略(NSS)」(1):台湾に関する言及
サポートメンバー限定
現在の日本を見て覚える将来への不安(雑感)
サポートメンバー限定
トランプ「ロシア・ウクライナ28項目和平案」の要点
読者限定
高市首相は何を意図していたのか
読者限定
高市首相が無視したのは「戦略的曖昧性」
読者限定
トランプ大統領に一喜一憂する日本人は「多極化した世界」を受け入れられる...
読者限定
「多極化する世界」の中の「G2」:後景に退いた「FOIP」「クアッド」...
読者限定
「多極化する世界」における「勢力圏」の顕在化と「従属国」の概念:アメリ...