小泉悠氏の朝日新聞記事と「二つの地政学理論」

 「反グローバル」系の陣営は、多極主義の思想傾向を持つ。それは私が論じてきている「二つの地政学理論」の視点に大きく関わる。『The Letter』でも書いてきているように(例えば3月16日配信記事)、トランプ大統領には「大陸主義」の傾向を持つモンロー・ドクトリンのアメリカ政治思想の性向が見られる。それがロシアの「ユーラシア主義」の「勢力圏」の発想とどう関係しているのか。現代的な関心事項である。
篠田英朗 2025.03.28
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 数日前(3月25日)、「(交論)巻き戻される国際秩序 藤原帰一さん、小泉悠さん」という朝日新聞の記事を見た。https://digital.asahi.com/articles/DA3S16178424.html そこで「この戦争は終わらない」が持論であった小泉氏が、「撃ち合いの止まる可能性は今、この3年間の中では最も高くなっています」と述べているのは、興味深い点であった。加えて、小泉氏は次のように述べていた。

 「世界は6個か7個の勢力圏に分割されていることが望ましいと考えているのだろうと思います。2000年代以降にプーチン政権下のロシアで語られるようになった世界構想です。・・・構想では、個々の勢力圏にそれぞれ『力のセンター』となる国が存在します。ユーラシアであればロシア、アメリカ大陸であれば米国、東アジアであれば中国、といった具合です。・・・センターである国々は、自身の勢力圏を支配下に置く一方、他のセンターたちが支配する勢力圏には踏み込みません。つまり、大国同士の間では『平和』が共有されるのです。ただし、大国とその周囲にある中小国との関係は、きわめて大国中心的になります。・・・この勢力圏分割構想は、19~20世紀の地政学の思想にそっくりです。・・・トランプ氏の世界観は明瞭ではありませんが、北米のカナダを併合したいと願ったり、中米にあるパナマ運河を獲得しようとしたり、北米大陸に近いグリーンランドを獲得しようとしたりする姿勢から、そう感じるのです。・・・従来の米国は、大西洋や太平洋を越えて他の大陸にまで勢力を広げようとする国でした。しかしトランプ氏は、北米大陸と周辺には強い関心がうかがえるものの、欧州やアジアには経済以外の関心をあまり向けない印象があります。勢力圏分割的な発想があるのでは、と疑うゆえんです。」

二つの地政学理論の伝統

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  • トランプ大統領の思想傾向
  • トランプ政権は分析に値しないか

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