『地政学理論で読む多極化する世界』の公刊
『地政学理論で読む多極化する世界』
篠田英朗『地政学理論で読む多極化する世界:トランプとBRICSの挑戦』(かや書房)が、本日7月30日が公刊となった。https://www.amazon.co.jp/%E5%9C%B0%E6%94%BF%E5%AD%A6%E7%90%86%E8%AB%96%E3%81%A7%E8%AA%AD%E3%82%80%E5%A4%9A%E6%A5%B5%E5%8C%96%E3%81%99%E3%82%8B%E4%B8%96%E7%95%8C%EF%BC%9A%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%97%E3%81%A8BRICS%E3%81%AE%E6%8C%91%E6%88%A6-%E7%AF%A0%E7%94%B0%E8%8B%B1%E6%9C%97/dp/4910364854 地政学に関する書籍は多々あるが、実は私のように「地政学理論」に体系的なこだわりを持っている場合は珍しい。マッキンダーやハウスホーファーの名前に言及することがあったとしても、「大陸系地政学理論」と「英米系地政学理論」の伝統の二つの違いの意味にこだわりを持っている場合は珍しい。そしてトランプ大統領とBRICSの動きという現代的な異なる諸国で起こっている事象について、「地政学理論」をあてはめて分析を試みている場合も珍しい。その意味では、現代世界の時事的な問題を扱いながら、独特の内容を持つ書になったとは自負している。
「二つの地政学理論」については、私はすでに『戦争の地政学』(講談社新書、2023年)で体系的な整理を行った。おかげさまで、この『戦争の地政学』は、英語対応版を、来年にSpringer出版社さんから公刊できる予定である。さらには、台湾でも、翻訳版が出版される予定である。現代世界を見る際にも、構造的な分析が必要だ、ということを理解してくださる方々がいらっしゃるのは、大変にありがたいことである。
多極化する世界
今回の『地政学理論で読む多極化する世界』は、「二つの地政学理論」の視点で、トランプ大統領のアメリカとBRICSに対する分析を試みた書物だ。『戦争の地政学』では、どうしても学説史や国際政治史の説明などに、紙幅をとらざるをえなかった。そこで『地政学理論で読む多極化する世界』は、現代世界の構造的な現象を読み解いていくことを主要な目的としており、『戦争の地政学』で扱いきれなかった問題を扱う続編としての意味もある。現代世界の時事問題を扱う一般向けの書だ。ただ、それにしても、理論的な視点を体系的に応用する姿勢を貫いている。
キーワードとなっているのは、「多極化する世界(multipolar world)」だ。これはBRICSが首脳会談の成果文書などで用いる概念である。BRICSは「多元化する世界(multilateral world)」といった言い方も用いる。ただBRICS構成諸国が、自分たちが国際社会で主導的な役割を担っていくことを強調する場合には、「多元化」よりも「多極化」が、概念として適しているとも言える。
「多極化した世界」は、世界が幾つかの「圏域」によって分かれている世界だ。これは「大陸系地政学理論」が持つ世界観と一致する。冷戦終焉後の世界では、「文明の衝突」の観点から描写される世界がこれに近い。最近では「反グローバル主義」と呼ばれることが多い思想傾向との親和性も高い。
『地政学理論で読む多極化する世界』では、ロシアの「新ユーラシア主義」、中国の「中華思想/一帯一路」、インドの「ヒンドゥー至上主義」といった概念を参照しながら、主要なBRICS構成諸国の思想的傾向を分析しつつ、「多極化する世界」の様相を探った。同時に近年のBRICS拡大の諸様相を、「大陸系地政学理論」の視座を援用しながら、分析した。
さらに『地政学理論で読む多極化する世界』では、トランプ大統領が持つ「新しい19世紀」と呼ぶべき思想傾向が、「多極化する世界」を実態として進展させていくだろうことを分析した。「モンロー・ドクトリン」「アメリカン・システム」「マニフェスト・デスティニー」などの19世紀アメリカの政治思想に、トランプ大統領の政策傾向が親和していく傾向を描き出した。
『地政学理論で読む多極化する世界』は、未来を予言する書ではない。しかし現代世界の混沌とした状況を、体系的に整理して把握するための視座を提示する。様々な議論の場において、有益性を見出してもらえるところがあれば、幸いである。
「篠田英朗 国際情勢分析チャンネル」(ニコニコチャンネルプラス)で、月二回の頻度で、国際情勢の分析を行っています。https://nicochannel.jp/shinodahideaki/
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