トランプ政権100日世論調査をどう読むか
4月29日がトランプ大統領の就任から100日目だということで、世論調査の結果が話題だ。アメリカは、大統領選挙も議会選挙も、きっちりと日程が固定されている。そのため就任100日目を節目にして世論調査を行う習慣なども固定化されている。正直、100日という数字に大きな意味があるわけではなく、非常に儀式的な区切りだ。この時点の世論調査に何の意味があるのかは、いろいろと文脈をふまえながら見ておくべきだろう。
100日目の世論調査結果はどれくらい悪かったのか
ワシントン・ポスト/ABC合同調査では、トランプ大統領の支持率が39%と、100日目の世論調査を開始してから史上最低になったことが、ニュースになっている。もともとトランプ大統領の宿敵のような存在のメディアによる調査の結果だ。トランプ大統領が感情あらわに「フェイクの報道機関によるフェイクの調査」などと反発するのも、おなじみの光景で、儀式の一部ではないかとすら思える。ちなみにニューヨーク・タイムズの調査では、支持率は42%だったという。同じ主要メディアの調査でも、3%程度は、誤差の範囲だということになる。 https://news.yahoo.co.jp/articles/f5a6a39395fd230c665787274c5a4eeda30096e4
実は、第一期トランプ政権発足後100日目の世論調査も、同じような結果だった。ABCは、8年前は、42%と出していたらしい。今回もニューヨーク・タイムズが42%と出していることと照らし合わせると、誤差の範囲内であり、ほぼ同じ水準と見ておいてよいだろう。https://abcnews.go.com/Politics/trump-lowest-100-day-approval-rating-80-years/story?id=121165473
ちなみにABCは、昨年の大統領選挙の直前の世論調査では、ハリス候補51%、トランプ候補47%の支持率と出していた。そこから考えると、トランプ大統領の支持率の減少幅は10%弱ほどだと推定される。https://www.ipsos.com/en-us/presidential-race-remains-close
これらの要素からは以下の事柄を整理して留意点としておくことができる。いずれも自明な点だが、日々のニュースの見出しだけを見ていると、意外にも識者の方々でも違ったことを言っていたりするので、軽視すべきではない点ではある。
留意点1:今回は全ては減税後
第一に、当然だが、100日目の世論調査は、スタートダッシュの印象論の反映でしかないので、政策の結果をふまえた世論調査とは言えない。バイデン前大統領は、100日目の段階で50%以上の支持率を持っていたが、その後すぐ2021年夏のアフガニスタン撤退時の惨事で40%前後のレベルに低下し、そのまま最後まで上昇することがなかった。
トランプ大統領の場合、今年の後半に、大型減税の導入を計画しており、現在すでに議会審議が進行中である。評判の悪い高関税政策も、DOGEの政府機関削減策も、その他の現在議会審議中の支出削減策も、全ては財政赤字を抑え込んだうえで、大型減税を実施するための布石である。世論調査の結果は、減税が実施され、その効果が見え始める来年になってからは意味を持つかもしれないが、それまではあまり意味がない。
留意点2:本人が低くしている
第二に、トランプ大統領の支持率が、第一期の時も低く、それは歴代大統領と比して非常に低いのが目に付く。これはトランプ大統領が際立って不人気であることの証左であるかもしれないが、自らが意識して行っていることである点にも注意が必要である。
伝統的に、歴代大統領は、就任直後は「超党派の立場で国民の融和を訴える」といったスタイルをとるのが普通であった。選挙時の対立を癒せるのは、勝者である大統領の側の力によるところが大きい。国民もある程度はそれを期待しているので、その融和スタイルそのものにハネムーンの支持を与える、というのが、伝統的なパターンであった。しかしこれは冷戦時代のように、国外に明白な敵を抱えている場合に、選挙時の対立を癒すことに大きな理由があった時代の話だ、という総括もできるだろう。
いずれにせよトランプ大統領は、全くそのようなスタイルを踏襲していない。それどころか自ら積極的に敵対的なスタイルを好み続け、就任後に次々と論争的な政策を急進的に導入している。これではなかなか支持率が上がらないのは当然である。
なぜトランプ大統領は、融和的な態度をとらないのか。もちろん政策への思い入れや性格的な問題もあるだろうが、後述するアメリカの選挙制度を計算に入れている点も非常に大きいと思われる。選挙に勝つことと、世論調査で過半数以上の支持を集めることは、異なっている。そこを極めて実利的に捉え、自らのパフォーマンスを自ら演出しているところがある。
留意点3:アメリカ社会の分断
第三に、支持率と選挙結果は、連動しているが、一致しない。2016年選挙時には総得票数では敗北していたトランプ大統領は、昨年2020年の大統領選挙では総投票でもハリス氏を上回った。その結果、圧勝を収めた。議会も上院・下院の双方を共和党が制した。ところがその昨年の選挙の際においてすら、事前の世論調査では、各社が一貫してハリス氏優位を伝えていた。なぜそうなのかという理由については、私も緻密に確定的には断言できないが、アメリカではいつもこのパターンなので、世論調査の見方のほうを調整するしかない。
一般には、世論調査ではトランプ支持を恥じて表明しない隠れトランプ派が一定する存在しているのではないか、と推察されることが多いようだ。私は、加えて、世論調査の方法に限界があるのではないか、とも疑っている。電話調査などでは、どうしても投票率も加味した地方部・都市部の比率の調整などまでは、なかなかできない。選挙結果を占うのであれば、アメリカの場合、全米の世論調査などはもうほとんど意味がなく、いくつかの「スウィング州」の動向を、カウンティ単位で詳細に調べていかなければならない。おそらくは短期間に一斉に行うのは、不可能でなければ、経費の面で採算が合わないような世論調査が必要になるだろう。
ちなみに6年前のトランプ第一期政権の際の2018年中間選挙の時には、トランプ大統領の支持率は40%少し程度だった。それでも下院は民主党が制したが、共和党が上院を制する、という結果だった。中間選挙は、一般に現職大統領の党に不利に働く傾向が強いことを考えると、共和党が善戦したとも言える。現時点での世論調査でトランプ大統領の支持率が40%前後だという結果だけでは、次の中間選挙でも共和党と民主党の勢力はそれなりに拮抗する、という予測までは導き出せるかもしれないが、それ以上は無理だ。現在、野党民主党に対するアメリカ国民の支持率は、共和党への支持率を下回っている。https://www.foxnews.com/official-polls/fox-news-poll-democrats-favorability-hits-new-low-still-favored-over-gop-2026-midterms
アメリカ社会は分断の度合いが進んでいるとされる。その事情を悪化させた張本人がトランプ大統領だとされるが、いずれにせよトランプ大統領本人は、是正の意図がないだけでなく、その分断を利用して政治を運営していくことにしか関心を持っていない。そしてそれは、アメリカ合衆国の憲法制度・選挙制度を踏まえれば、むしろ合理的な側面がある。
本来のあるべき民主主義は何か、という問いを立てた場合には、全く異なる議論の様相がありうるだろう。だがいずれにせよ、トランプ大統領は、そのような問いには関心がないようである。
これらの諸点をよく踏まえたうえで、現時点のアメリカの世論調査を読むことには、情報の整理という点で、もちろん意味がある。しかし、その場その場の閲覧者数を増やすことにしか目が向いていないニュースメディアの見出し文だけを見て何かがわかったような気になってしまったら、非常に大きなリスクを抱えることになる。
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