基軸通貨ドルと西洋の敗北(トッド『西洋の敗北』を読む2)
エマニュエル・トッドは1970年代にソ連崩壊を予測し、2002年『帝国以後』で米国の衰退とドル体制の脆弱性を指摘した。2024年『西洋の敗北』では、基軸通貨ドルに依存した「スーパー・オランダ病」により米国(西洋)が構造的に自壊しつつあると論じている。その問題提起の核心にあるのは、ドル基軸通貨体制の行方である。
篠田英朗
2026.02.06
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大国の崩壊を予測し続けるトッド
トッドは、若干25歳の処女作である1976年『最後の転落 (La Chute finale)』でソ連崩壊を予測する議論を提示して、注目された。その根拠は、識字率上昇の後の出産率の低下にそってソ連が「近代化」している一方で、乳児死亡率が上昇し始めたことをもって体制の脆弱性を指摘したのだった。実際にソ連が崩壊したのは、その15年後だったが、それはトッドの「30年以内の崩壊」という予測にも合致していた。
1976年といえば、アメリカがようやくベトナム戦争の泥沼から脱け出た後、サイゴンが陥落し、アメリカの低落が強く印象付けられていた時期であった。それだけに勇気ある予測であったが、トッドの長期的傾向分析の確かさを印象付けるエピソードともなった。
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- 『帝国以後』の予測はどこまで当たってきたのか
- 基軸通貨ドルというアメリカの病理の核心
- 世界帝国を維持できない理由
- 『西洋の敗北』へと引き継がれた問題意識
- アメリカの「スーパー・オランダ病」
- 国際環境の変化
- 長期的なスパンでの瓦解としての「敗北」
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