アメリカのICC制裁で混迷を深める「国際社会」の「正当性」概念

米国のICC制裁は、国際法上も国内法上も正当化の根拠が薄く、金融制裁への信頼を損なう。欧州にも制裁に従わない動きが広がれば、その実効性は低下する。これは米国の単独主義にとどまらず、「国際社会」という概念そのものの形骸化を示している。
篠田英朗 2026.08.29
読者限定

米国のICC制裁が浮き彫りに刷る問題

 前回の記事を書いてから、アメリカのICC制裁が日本国内でも大きな問題となっている。私自身も、あらためて『現代ビジネス』に拙稿を掲載してもらったところだ。「ICC赤根所長への制裁 「大統領令に従う法的義務はない」と口にできない日本政府「一人負け」の構図」 「ICC赤根所長への金融制裁の問題点とは 「支配力の濫用はアメリカの金融覇権に陰りをもたらす可能性」

 私は2017年にICCでVisiting Professionalという肩書をいただき、半年ほど無給職員のようなことをやっていた。現在でも知り合いはたくさんいる。それを生かした研究活動も行ってきた(東京大学ROLESでの研究論文集) 。そのため、ICCに対する心情的な思い入れは、それなりに強い。

 アメリカの金融制裁については、私の中核的な専門分野である武力紛争の分析と平和構築政策の観点から、長く関心を持ってきた。国際社会が一致団結して行う制裁に正当性があるのか、効果があるのかをめぐる議論は、20世紀初頭に国際連盟が設立された時代から、約100年にわたって続いてきたと言える。ただし、それがアメリカとEUによる単独的な一方的制裁として濫用の度合いを高めてきたのは、21世紀に入ってからの傾向だ。これについても関心を持ってきた(『国際法外交雑誌』掲載の拙稿) 

この記事は無料で続きを読めます

続きは、3462文字あります。
  • 国連憲章体制と経済制裁
  • 原理的な面から見て正当性を欠いたアメリカの行動
  • 違法性の高い経済制裁
  • 「国際社会」という概念を使用する困難

すでに登録された方はこちら

読者限定
アメリカのICC制裁:金融制裁の歴史の中で捉える
サポートメンバー限定
プーチン大統領の北方領土訪問をめぐる国際政治学者の言説についての雑感
サポートメンバー限定
プーチン大統領の北方領土訪問で強硬路線を唱える国際政治学者たち
読者限定
サウジアラビア・パキスタン・トルコのメッカ共同防衛協定への諸国の反応と...
読者限定
サウジアラビア・パキスタン・トルコ防衛協定(メッカ協定)と中間派イスラ...
読者限定
ウクライナはドローン産業で生き残れるのか
読者限定
国際戦争化する内戦:複合的武力紛争の時代
読者限定
地政学的概念の誤解を招く用法